観光区域の中心部から西寄りに程よく距離を置いたハイライズに暮らす知り合いのアンティから、部屋の洗面所の水が止まらずに今にも溢れ出しそうで困っているのよと電話口で告げられ、何はともあれ、僕はひとまず彼女の部屋に急ぎ駆けつけることにした。
できるだけ直線的な最短距離を採る車での行き方として、西向きのルナリロFwy.を25Bの通し番号が振られた出口で降りてカピオラニBlvd.をダウンタウン方面に進み、マッカリーSt.との交差点を経由して運河を越えるという道順が、ほとんど反射的に、僕の頭の中では既に出来上がっていた。
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「ALOHA百景」カテゴリーアーカイブ
Fabric Rainbow
雨の降る気配など微塵も感じられない、カラカウアAve.沿いの午後の遅い時間。
見上げた窓に、虹のカーテン。
どれが優れているとか劣っているとか、そういう概念は色には存在しない。
そこには違いがあるだけであり、互いの足らない要素を補完しあう関係が成立している。
色とはつまり調和の問題なのであり、不要な色など、なにひとつないのだ。
朝のハレイワを歩く。
整然と美しいワイキキの街中で過ごす朝にだって、かなりゆるやかな時間が流れているし、それはそれで大変に心地がよいものだけれども、ハレイワの町中でのそれと比べたら甚だ忙しくあわただしい。
少し前に降り止んだ雨の程良い湿り気を含んで、濃厚な早朝の香りを深く湛える空気。
一面の畑の丘から雨を連れてきた雲が、海に向かってゆっくりと押し出されつつも抜けきらない空に現れる虹。
どこからともなくやってきて、軒先のポーチの前に座りこみ、毛繕いをはじめる一匹の猫。
まだ人通りのほとんどない、こんな早朝のハレイワの町を、ひとり自分自身の足で歩いてみるといい。
それはそのまま、ほんの少しばかりではあるけれど、かつてのハワイにあった朝の情景と日常の時間を追体験するまたとない機会となる。
北海岸の歴史的な町は、シェイブアイスの味だけで語ることはできないのだ。
マカプウ・トレイル | Makapu’u Trail
起点からの距離約2マイル、標高差およそ500フィートの、比較的ゆるやかな勾配の完全舗装。
体力や経験の有無を問わず幅広い年齢層を受け容れるハワイ州立の景勝地、Ka Iwi State Scenic Shorelineの散策道は、しかし、陽射しをさえぎる木陰もなく、天候と携行品に関して無防備にここを訪れた人にとっては、ちょっとした灼熱の小道と化すことになる。
それでもなお、真上から燦々と降り注ぐ太陽と、海から吹いてくる強い風に耐えて片道40分ほどのMakapu’u Point Lighthouse Trailの登り勾配をやって来たその先には、1909年に建てられた赤い屋根の灯台と、美しい緑のコオラウ山脈と青い海岸線をはるかに望む断崖の絶景がご褒美として待っているのだ。
参考資料:
Hawaii State Parks
Ka Iwi State Scenic Shoreline
http://www.hawaiistateparks.org/parks/oahu/index.cfm?park_id=20
Makapu’u Point Lighthouse Trail
http://www.hawaiistateparks.org/hiking/oahu/index.cfm?hike_id=23
North Shore Serenade
オアフ島の北海岸線に向かって一直線に延びる99号線。
これまでに幾度となく通っている、左右に見渡すかぎりの赤土の畑が広がる馴染みの風景の真っ只中を走り抜けるたびに、実は、僕の頭の中ではいつもワヒネ・トリオのNa Leo Pilimehanaが唄うNorth Shore Serenadeが、何度も何度もリピートしている。
ワヒアワで終わるH-2からそのまま続く99号線がワイアルア方面との分岐を示す方向案内板の横を通過する辺りから、ノースショアの水平線に向かって長い勾配を下りきって、Weedサークルで方向を間違えないように少しだけ慎重になってステアリングを切るあたりまでのあいだ、半ば無意識に、詞の内容と目の前の風景を重ね合わせたり、時には思わず鼻歌まじりに口ずさんでしまっていたりする。
青い空と海。
白い砂浜に打ち寄せる波。
どこまでも続くシュガーケインフィールドの風景。
町はちっぽけだけれども、心に深く染み込む素朴な美しさが残る天国のような場所。
それがノースショアの不思議な魅力なのよと、かつてのカメハメハスクールの仲良し同級生トリオが歌いあげている。
ノースショア・セレナーデはNa Leo Pilimehanaの公式サイトから試聴できます。
ピックアップトラック哲学。
カイルアタウン、Kuulei Rd.沿いの木陰でひと休み中のFord Ranger 1989-1992年モデル、などと、取り立てて場所と名前を挙げることもないほどに、いたるところにある島の日常のごく平凡な風景の一部として貼りついているピックアップトラック。
モデルチェンジのたびに細かなパーツの形や装備は時代にあわせて変わっても、動力を収めたエンジンフードと、人を乗せるキャビンと、そして、荷物を載せるフラットトップのベッドというシンプルなボディスタイルを時代を越えて変わらずにしっかりと受け継いでいる姿に、一貫した揺るぎない哲学を感じる。
今の時代において洗練されているとはお世辞にも言い難い、20年以上前の重たげなそのデザインは、明らかに陳腐化が進み 、色もすっかりツヤを失ってしまっているけれども、ボディにうっかりこしらえた凹みも、無数の細かい擦り傷も、長年現役で走り続け、晴れの日も雨の日も暮らしの現場でこてんぱんに使い倒されてきた名誉の勲章なのだ。
仕事を完璧にこなすための資材や道具でも、余暇を楽しむ道具でも、ベッドに積むものはなんだっていい。
人を乗せ、モノを積んで運ぶという、人に寄り添うアイアンホースとしての基本的な役割を忠実に守り続けているピックアップトラックは、しっかりと地に足をつけて働くオトナのためのクルマなのである。
恵みの露
大きな低気圧が広い海域にわたってしばらく居座っている影響で、まともに外を歩けないほどの大粒の雨が時折通り過ぎる日。
次から次へと空から垂直に落ちてくるそのひとつひとつを肉眼ではっきりと確認できるほどの大粒ではあるけれども、荒れた天気とも違う、静かで力強く、大地に根差す生命に豊かな潤いを与える雨。
このような雨は、ハワイの言葉ではなんと呼ばれているのだろう。
やがてコオラウの山並みへと降り注ぐ、その気まぐれな、ごく短時間のシャワーが駆け抜けたあとのタロの葉に、この島らしい明るい陽射しのかけらが少しだけ戻ってきた。