カネオヘの町の中心部からカヘキリHwy.を越えた山側の一画の、短く刈り整えられた美しい芝草の広場に到着すると、そこにはすでに少しずつ人々が集まり始めていた。
若い家族や年配の夫婦、あるいは気心の知れた仲間同士でやってきては、地べたに腰を下ろすのに手頃な大きさの敷物や、折りたたむことのできる一人掛けの簡易チェアを持ち込み、それぞれが思い思いの場所に陣取って、適度に緩やかな広がりを持った空間を作り出している。
太陽が西から斜めに射し込み、まだ十分に明るい休日の午後の広場に寄り集まってきたのは、この島の町で暮らす人々であり、そして、今の僕がそうであるように、島のミュージシャンたちが奏でる島の音楽を楽しむために、ここへやってきたのだ。
目の前には、ごく簡素で小さなステージがこしらえてあり、そこでは幾人かの男たちが、必要最小限に配置された機材の調整を仕事として行なっている。
黒いケースに収められたギターやコンサートウクレレを携えて、こちらに向かってゆっくりと歩いてやってくる大柄な男たちが、これから演奏を聴かせてくれる何組かのうちのひとつだ。
彼らは、集まった人々の中に知り合いの家族の顔を見つけると、歩み寄ってハグを交わし、たわいもない世間話でお互いの近況を確かめあっている。
洗いざらしの揃いのアロハシャツを引っ掛け、ゆったりとしたシルエットのショートパンツに素足でサンダルという、なんとも丸腰のいでたちだけれども、ひとたびステージに上がったなら、その巧みな演奏と美しいファルセットボイスのハーモニーで聴く者を魅了する、島でよく知られた一流のミュージシャンたちなのだ。
機材の準備が調い、軽いチューニングを済ますと、穏やかにセッションが始まった。
誰もが気軽に立ち寄ることのできる開放された野外での彼らの演奏は、生業として観光客の前に立つステージでのそれとなんら変わらず手抜きはなく、シグネチャからカバーにいたるまでの曲のレパートリーに出し惜しみはない。
誘うように気持ちを高めてくれるお馴染みのあの曲が始まると、誰が言い出すともなく聴衆の中の一人がおもむろにステージの脇に歩み出て、しなやかなフラを演じて華を添える。
演じる者とそれを聴く者との間に流れる島の時間と空気にこの上なく調和した、島の音楽の心地よさを誰もが楽しんでいる。
難しい話も、堅苦しい形式も止しにして、いつでもどこでも人が集まったなら、ちょっと一曲弾いてみようじゃないか。
Kani Ka Pilaとは、このような力の加減で音楽を楽しむ島の流儀を見事に表すフレーズとして用意されている素敵なハワイの言葉なのだ。