THE EDDIE 2012-2013|002:63歳の挑戦状

Eddie Aikau

僕がいる位置から見える彼は、大きく車座になった男たちの輪の中で海に向きあってしゃがみ込み、意識を集中するように視線を落として一点を見つめている。
彼の足元には、巨大な波に対して完璧な性能を発揮することに特化した長さと美しい細身の形状を持つ、オレンジ色のビッグガンが寄り添っている。
ワイメアビーチパークの砂浜に設営された、28年目を迎えるThe Eddieのオープニングセレモニーの会場では今、栄誉ある招待選手たち一人ひとりの紹介が行われている最中だ。
家族の集いのような和やかさに支えられた厳粛な空気の中、彼はその取りを飾る28人目の選手として、満を持して紹介された。

まさにエディ・アイカウの記憶を現在につなぐ架け橋であり、その魂を受け継ぐ、慎ましきハワイのビッグウェイバーの最高峰。
長年海を敬愛し、人々にその素晴らしさを伝え、人生を共にしてきたウォーターマン。
このワイメアベイの危険な波に幾十年も向き合い、そして、1986年2月にこの地で開催された記念すべき第1回大会の勝者として、最上級の賛辞で迎えられた、エディの実弟であり最も親しいパートナーであったクライド・アイカウは、意を決するように立ち上がった。
選手や観衆から大きな喝采が沸き起こった。

祝福のレイと、サーフボードを模った記念の楯を受け取った彼はマイクを受け取り、今日ここに集まった超一流のビッグウェイバーたちとともに、63歳にしてなお巨大な波に挑むことを宣言した。
彼は、この大会における若い世代の台頭に称賛と歓迎の思いを表し、年齢と経験を重ねた者たちは、彼らと共に充実した時間を過ごし、良きライバルとして、共に海に漕ぎだして行くのだと述べた。
そして、彼自身にとっては、確かな実績を残す一人のサーファーとして成長しつつある彼の息子の存在が、自分を波に挑ませ、目標とすべきライバルとなっていることに敬意を払い、誇りにしていることを打ち明けた。

なぜアンクル・クライドは63歳になった今でも、危険な大波に挑むのか。
それは、兄であるエディと愛するアイカウファミリーの名誉のためであり、そして、今日のようなビーチに賑やかに並ぶカメラの砲列もなく、誰からも相手にされることはなかったけれど、他のどこの波よりも気持ちを昂ぶらせ夢中にさせるワイメアベイの巨大な波に挑むことを愛してやまなかった、かつての若かった仲間と先達たちの名誉のためなのだという。

慎重に言葉を選び、自らの心情を一気に語った彼は、少し口調を変えて、この場に居合わせる年齢を重ねた方々に申し上げたいことがあると切り出した。
いったいなになのかと真剣に耳を傾ける僕らに、彼はいたずらっ子のような笑顔を見せてこう言った。

「ソファに寝そべってテレビなど見ていないで、少しでも自分を変えてみることだ。年齢を重ねても自分を磨き鍛え続けるならば、63歳にして大きな波を乗りこなすことができるのだよ」

そのことを体現する彼自身の説得力のある言葉で発破をかけられ、身に覚えのある観衆からは笑いと賛同の拍手が起こった。

若い世代に向けた手放しの歓迎と敬意の思いを打ち明けたアンクル・クライドではあるけれど、しかし、ワイメアのレジェンドサーファーとして、彼らの台頭に甘んじているわけではない。
彼は、今大会で初招聘された若干20歳のジョン・ジョン・フロレンスとの直接対決を心待ちにしていると挑戦状を叩きつけた。
あきれたものだという調子を完全な好意で表した笑いと、その挑戦を全面的に支持する喝采を受けた彼の表情は、たいそう柔和な笑顔だったけれど、その言葉が本気であると言っている彼の目を、僕は見逃さなかった。

実に40年余りという世代を隔てた二人が、中途半端な姿勢や小手先の細工など一切受け付けない圧倒的な自然の力に、真っ正面から対等に向き合う。
その覚悟と期待を以て巨大な波が来る日を待つ季節がいよいよ始まるのだという高揚感は、彼の結びの言葉によって最高潮に達した。

「Let’s Rock’n Roll」

きょう一番の大きな笑いと拍手と声援の中、28年目のThe Quiksilver In Memory of Eddie Aikauが幕を開けた。

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