北緯20度50分5秒、西経157度16分5秒の地点を地図で探しあてて行くと、そこはオアフ島から南東に向かった洋上を示していることがわかる。
ラナイ島の西の沖およそ20マイルつまり30数キロメートルの距離の、モロカイ海峡を抜けた先にあたるこの位置は、34年前の今日エディ・アイカウが、悪天候で遭難したホクレアに共に乗り合わせ絶望の淵にあった仲間たちの救助を求めに向かった、最期の場所だ。
その前日、あきらかに下り坂に向かいつつあった海の天候は、近代的な機器を使うことなく天体の運行や自然から受ける様々な情報だけを頼りにして船を正しい目的地に到達させるポリネシア伝統の航海術による二度目となるタヒチまでの長い旅の出発にはまったくの不向きであった。
しかし、ネイティブハワイアンの誇りであるその小さな双胴カヌー・ホクレアの出港を祝い見送るためにマジックアイランドに集まった実に多くの人々の熱気と、その航海の成功が彼ら海洋民族のアイデンティティにとって大変重要な意味を持っているという重圧とに押し出されるようにして、エディアイカウを含めて16名の乗組員を乗せたホクレアは、夕闇迫るアラモアナからタヒチに向けて進んでいった。
出港からおよそ6時間後、真夜中の完全な闇に覆われた海上は、恐れていたとおり強風と高波のひどい荒模様になった。
充分に訓練された乗組員たちの技量をもってしても船体の制御は極めて困難な状態に陥り、浸水して傾きはじめたホクレアは、ついに転覆してしまう。
全員がかろうじて船体にしがみついてはいるものの、緊急用の無線や、食べる物や飲む物も転覆した拍子にそのほとんどが流されてしまい、激しい波の揺れによって著しく体調を崩していくものも現れはじめた。
このままでは全員の命が失われてしまうと考えたエディは、自分を救助の要請に向かわせてほしいとキャプテンに願い出た。
それは、タヒチでの波乗りのためにエディが船に積みこんでいた12フィートのサーフボードでパドルアウトしてラナイ島に向かうというものだった。
しかし、この悪天候の中で船を離れることは、すなわち彼が命を落とすことであり、それは許されることではなかった。
救出されるあてもまったくなく、絶望的な状況のまま夜が明けた。
潮で大きく流されたことで海上と上空いずれの航行経路からもはずれてしまい、流木のように漂う彼らが誰かによって発見される可能性も徐々に薄れ、通信手段も断たれ飢えと乾きと寒さで体力は消耗し、打ちのめされた彼らは皆、衰弱の極限状態に追い詰められていた。
エディはワイメアベイでこれまでに数えきれないほど多くの命を救ってきたライフガードの本能的な使命として、この最悪の事態の中で自分が何もせずにじっといることなどできなかった。
彼はもう一度キャプテンに、救助の要請に自分をラナイ島へ向かわせてほしいと願い出た。
激しい議論が尽くされた苦渋の決断として、彼の願いは認められた。
疲れ果てた乗組員たちにとって、もはやエディは唯一残された最後の希望だった。
そして、ハワイ時間の1978年3月17日、およそ午前10時30分頃。
なにもかもうまくいくのだと言い残し別れを告げたエディは、遥か20マイル先のラナイ島を目指して、世界でも有数の危険な海域にひとり漕ぎ出し波間に消えていった。
その日の夕方、漂流を続けていた乗組員たちは、コナからホノルルに向う民間の航空機によって奇跡的に発見され、全員が無事に救助された。
しかし、ラナイ島に向かったエディの行方は途絶え、もう二度とその姿を見ることはなかった。
今でもホクレアの左舷後方には、自らの命も顧みることなく仲間を救おうとしたエディの献身的な精神と行動を讃えたプレートが静かに据え付けられている。
人々に愛されたエディを失った不幸な遭難事故を乗り越え、ネイティブハワイアンの誇りを継いだホクレアはこれまでに数々の長距離航海を成功させ、2007年には5ヶ月間をかけて日本各地へも寄港した。
そして来年、2013年から3年間をかけて、これまでどおりの伝統航法で地球を一周する遠大な航海が始まる。
彼自身の肉体がタヒチにたどり着くことはついに叶わなかったけれど、彼の魂はホクレアとともにいくつもの海を渡り、国境と時代をはるかに越えて世界中を駆け巡ろうとしている。
エディさんのお話を読んで… なんて勇敢な正義感溢れる方だったんだろうって驚きと共に敬意を捧げます。
普通なら…出来ない事です。本当の意味で強い方だったんですね。
Puaさん、こんばんわ。
エディがハワイの人々から愛されるのは、勇敢、寛容、謙虚、そんな理由からなんですね。
来年からの航海で世界のあちこちの港でエディのプレートを掲げたホクレアが見られるのかと思うと、今からちょっと楽しみで、万感迫る思いです。
エディさん。
今も、サーフィンしていますか…
ご冥福をお祈りいたします。
ケンケンさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。
もちろん、今でも続けているに違いありません。
もうすぐ、30年目のThe Quiksilver in Memory of Eddie Aikauの季節がやってきます。